岩井の本棚 「本店レポート」 第12回 |
鳴子ハナハル特集号
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ぼくが鳴子ハナハルの名前を始めて知ったのはいつだったか。そう遠くない気がします。はじめて見たのは3年位前。同人誌「天体観測」。
中学生の頃、生まれて初めて自分の小遣いで見たアニメ映画「オネアミスの翼」。
いうまでもなくGAINAXの最高傑作です。映像エフェクトもさることながら、ストーリーに感動し、 サントラを買い、ムックを買い、ビデオをダビングし、そしてGAINAXスタッフの名前を覚えました。
オネアミスに登場するヒロイン、リイクニ・ノンデライコは従来のアニメにはまったく登場しないようなヒロインで、 宗教にのめりこんで世の不浄を人たちに説く毎日を送っている・・・という設定です。
世の中の矛盾や不浄に対し反発し、折れることがない潔癖さと、無垢なココロを持ち合わせた少女。
主人公シロツグは、自分とのよこしまさと世間の汚さを嫌悪し、リイクニに惹かれていく・・・。
しかし物語中では、リイクニもシロツグも、何かが結ばれるわけでなく終わりました。
その後GAINAXはオネアミスとはまったく違う方向性の作品を作り始め、オネアミスの主柱だった山賀博之さんは作品の表舞台から消えました。
そしてオネアミスも
「商業的には失敗したが、完成度の高い変わったアニメ」
という評価だけが語り継がれるようになりました。やがて時は流れて、ぼくはまんだらけで働いていました。
オネアミスの監督である山賀さんは、オネアミス公開当時、まだ28歳でした。
それを支えるGAINAXのメンツも、多くは20代でした。20代の若者達が集まり、伝説になるような映画を作った。
ぼくはやがて彼等がオネアミスを作り上げた時の歳になっていました。
クリエイターではないぼくは、日々を普通に磨耗しながら働くことで精一杯でした。28で映画を作って世間の度肝を抜く。そんなことはできっこない。
その答えに疑問を感じずに働いていました。
そんなとき、ぼくは「天体観測」を見かけたのです。
この同人誌の表紙はオネアミスの翼のキャラクターたちが、原典に忠実でありながら、細かなペンタッチでアレンジを加えられ描かれていました。
見た瞬間、ぼくには15年ぶりにオネアミスの感動を思い出したのです。
当時オネアミスはその当時あえて省みる人がいない物語でした。何故今更オネアミスを? そしてこんな美麗なタッチで描ける人って、誰なんだ?
貞本さんが後年描いたオネアミスの絵は、そのとき貞本タッチでもっと鋭角的でした。
それに比べ「天体観測」の絵は当時の貞本タッチの雰囲気を残し、かつ構図も背景も最高の出来栄えでした。
見た瞬間に震えた、同人誌を見て震えたのは初めての経験でした。
時間がなく表紙しか確認できなかったので、そのタッチの持ち主が誰なのかはわからないまま、ぼくの心にとどまりつづけました。
そして去年。いろいろなサイトで、エロ雑誌「快楽天」で抜群の画力と風変わりな余韻を残す作風で周囲の度肝を抜く新人、 として取り上げられているある人の名前が、語られはじめました。
そしてそれが「天体観測」の作者だということも、ぼくは人づてにしりました。
鳴子ハナハル。
ノスタルジックな背景。そして構図。もちろん美少女。濃いエロ描写。奇妙な読後感。一度で虜になってしまいました。
カラーで見せるCGの達者さとは逆に、モノクロームではスクリーントーンに逃げない緻密さ。
本日発売の初単行本「かみちゅ!」とともに、発売後すぐに入手困難になった「コミック失楽天 鳴子ハナハル特集号」が入荷しました。
表紙カスレありで1050円。
美麗なカラーが味わえる「robot」も、そして鳴子ハナハル表紙のカラーが味わえる快楽天も本店2に揃っています。
鳴子ハナハルが描きつづける限り、ぼくの中ではたぶんオネアミスを忘れることはないだろう。そんな気がします。
描き手も、読み手も、絵が人を感動させると信じる人、画力を信奉する者にとっては目を通さねばならない作家だとおもいます。
※この記事は2006年1月27日に掲載したものです。
(担当岩井)