岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第21回 |
エビ味?
(図1)
(図2)
歴史も既に長く、アニメでここまで続編が作られつづけたものがガンダムくらいしかないことを考えると、やはり特撮は日本が世界に誇ってよい大ネタといえるでしょう。
・・・まあ仮になんですが、もはや視聴者のメインがこどもではなく、デカピンクやデカイエローに熱い視線を送る旦那さんだったり、龍騎やクウガの同人誌や特撮雑誌を潤んだ瞳で読みまくる奥様だったりすることはあっても。
僕の世代くらいでもライダーやウルトラシリーズは再放送してましたが、今の子供たちだと、お父さんが借りてきたビデオで追体験するほうが多いのでしょうか。
僕としても再放送以外のリアルタイムで見れたウルトラシリーズは、青春学園ドラマ+怪獣モノ、というワケわからん「ウルトラマン80」くらいです。
怪獣とは言っても動物ですから、もちろん食べ物を食べるわけですが、いきなり地中から現われたり、宇宙から降ってきたりするので、食事シーンはあまり登場しません。
それでも好物、というのが設定されていて、初代ウルトラだったらゲスラの好物はチョコレート、とかガマクジラの好物は真珠、ゴルドンは黄金が大好き、といった特徴はあります。
しかし一匹だけ、怪獣にもかかわらず、食べたらどんな味がするかまで語られている怪獣がいます。
それが「帰ってきたウルトラマン」に登場したこの「ツインテール」(図1・図2)です。
僕が子供のころに読んだ「小学館入門百科シリーズ・ウルトラ怪獣入門」(昭和46年初版)には、 「怪奇なスタイルをしている。長いヒゲのようなものは、しっぽだ。 (中略)ひげのような尾を振り回して、えものをさがし、一撃のもとにたおしてしまう。工事で掘り出されたタマゴからかえった。」
ここまではいい。
まだ分かるかなという気がすんのですが、
(図3)
・・・って、おまえ喰ったんか?
と言わんばかりの詳細さで味について語られています。
ちなみにこれがグドン(図3)。
いかにも悪そうなツラがまえですね。
別のページにも、
「表面はスチールの十倍以上の硬さだが、肉はやわらかくておいしい」
・・・って、おまえ喰ったんか?
と言わんばかりの詳細さで肉のやわらかさがたたえられています。
別の怪獣のエサで登場する、情けない存在のツインテールですが、実は放映話ではどこにも「エビの味がする」などと語られてないのです。
もちろん団次郎が「坂田さん、エビ味だ」などと暗い顔をしてつぶやくはずもありません。
後付け設定で、怪獣図鑑にのみ掲載されつづけた情報なのです。ですので知っている人、知っていない人に分かれてきます。
というわけで、怪獣モノを扱っている当店トイスタッフ何名かに「ツインテールって何味?」と質問したところ
「エビ味です」
「エビです」
「ツインテールはエビの味がします」
と、あたりまえですよ、なにいってるんすかくらいのイキオイで、「何でそんな質問いきなり?」などと疑問もいだかずサラッと答えたので感動しました。
虎のシマは洗っても消えない、というか、スズメ百まで踊り忘れず、というか、たぶん僕もあと何年たっても、同様の質問されたら「そりゃエビだよ」と即レスすんだろうなぁとふと感じ入りました。こういう知識は絶対に忘れないので。
ちなみに社内の女性スタッフにツインテールの写真を見せ「これどんな味がしそう?」と問うたところ
「苦そうですね」
「ブドウ味」
「外側は香ばしい」
などと、どいつもこいつもラリってんのかとビックリするような素っ頓狂な答えばかりが山のようにかえってきましたが、 ひとりだけツインテールのことを全く知らないのにもかかわらず、 「伊勢エビみたいな味だと思う」
と正解をついてきた者がいました!
よく見ると腐った荒井注みたいな顔をしているこんなツインテールですが、女性に初対面で伊勢エビをイメージさせるゴージャスさももちあわせているのです。
それにしても円谷プロの教育は我々をがんじがらめにしており、平成に入ってからも増刷されつづけている怪獣入門書「決定版ウルトラ怪獣」(小学館)には、
「恐竜にも肉食と草食があるように、他の怪獣をエサにして生きている怪獣がいます。
ということは、エサにされている怪獣もいるわけです。
新宿の工事現場で掘り出された卵から生まれたツインテールもそれです。
ツインテールはグドンの大好物ですが、生まれたてはエビの味がしてとてもおいしいといわれています」
・・・と、オリジナル放映から30年たち、再放送でさえ見たことがないだろう今の子供たちにも「ツインテール=エビ味」を知識として啓蒙しているのです。
これを読んだ子供たちが、あと20年くらいたって「ツインテール? たしかエビ味だったかな」とフツーに答える大人になるのかと思うと、円谷プロ不滅の秘訣を見た気がします。
それにしても、今気がついたんですが、ツインテールって手とか足が一切ないんですよ。
動けないし抵抗できない。でも美味しい。
まさにエサになるためだけに生まれてきた怪獣。
全怪獣の中で、ジャミラ、ペガッサ星人の次にカワイソウな怪獣です。
※この記事は2004年10月12日に掲載したものです。
(担当 岩井)
(担当 岩井)